The Legion 『Theme + Echo = Krill』 SOURCE誌1994年10月号 アルバム・レビュー拙訳

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The Legion
Theme + Echo = Krill

1986年から1988年のヒップホップは、長くヒップホップを聴いている者にとって涙ぐませるような時代だったように思う。その頃のニューヨークが全ての『音楽の街』中でトップであったことは疑いようがなく、そこのラッパー達が過ちを起こすことも無かった。Tower(ご存知の通り、音楽系小売店)やSam Goody(音楽系小売店)の事は忘れろ。リアルな奴らは、Music Factory(1992年にタイムズ・スクウェアの再開発の際、閉店したニューヨークのレコード店)に、最新のブレイク・ビーツやファットなシングルを買いに行かなきゃならなかった。他にはROCK & SOUL(今尚、営業しているニューヨークのDJ向けの音楽系小売店)とか、DL shit(不明)のためにDownstairs Records(音楽系小売店)に行ったりな。Def JamやCold Chillin'や4th & B'Wayといったレーベルが才能をもったアーティストと契約してた頃で、ファンは誰もレコード・レーベルが、大ヒットを狙って、アルバムに大金を投じてるなんて感じなかった時代だ。その時代の特徴はリアルなラップが、死にそに咳き込んだりわけの分からない事をラップするものではなく、慈悲を乞うように囁くようなラップでもなかった点だ。The Rooftop(クラブ)やLatin Quarter(クラブ)のような場所が、素晴らしいライムの品評会の場所だった。ウルトラマグネティックMC's、ラキム、ビズ・マーキー、ビッグ・ダディ・ケイン、ブーギー・ダウン・プロダクションズが、繁華街のクラブのスピーカーを支配していた。そして『ハードコア』とは純粋に詩の投影する世界観やリズムの良いラップでビートを乗りこなす事を意味し、口汚いグロック(ハンドガン)やマリファナの自慢というものでは無かった。

しかし、今となってはそんなものは歴史の1ページに過ぎない。The Legionのデビュー作は、聴く者にそれらの素晴らしい日々を、瞬間的に思い出させようとする意欲作だ。The Rooftopの伝説的なDJ Brucie Bを迎えた曲もある。頭を揺らす素晴らしいビートの数々。Krillは優れた才能に溢れた時代の文体の制限を再現するに留まらず、さらにその先に到達した。前述の少数の傑出した才人を覗いては、コンセプトの一貫したアルバムよりもシングルが主流だった時代であったことを忘れている方々もいるかもしれない。積極性のないグループは、6曲や7曲のEPで充分と考えられていた時代、21曲入りのアルバムの制作を無理に強いられていると感じなかったし、出すことも叶わなかった。Krillは、3人のメンバーの熱意にも関わらず、この問題に大いに悩まされた。

今や、"Jingle Jangle"と2つの"Who's It On"はパーティを盛り下げる事はない。3曲とも、何故ファンキーなビート、気の利いた言い回し、時勢を読んだ物言いとフリースタイルが、この音楽の最も大事な部分であることを証明する完璧な例であろう。CulesとChunky SmashとCee-Lowは、ラップの技術でファンキーなグルーヴを乗りこなしている。ゲストアーティスト、Chi-Ali、Black Sheep、Showbiz & A.G.は楽曲を更なる高次元へと高めている。しかし、"Zootie Bang"や"Rest In Peace"といったアルバムの残りの曲はタイトなプロダクションにも関わらず、シングルは切られていない。テーマに重みを加える物語によって、アルバムを通して何度も聞きたくなる、まるで『エコー』である。

The Legionは、今回のアルバムよりも、むしろ全ての曲がクラブでプレイされるEPの形でのリリースの方が好ましいと思う。現在、ラップは、引き伸ばされたパーティライムとギャングスタの物語ではLPで出すには不十分であるという所まで、ラップは成長してきた。およそ、それは今日のヒップホップ業界の祝福であるのと同時に呪いでもある。どちらにしても、彼らの苦労が黄金期のヒップホップを呼び覚ます助けになることだろう。